2025/06/10
鉄骨倉庫は、強度、耐久性、コストパフォーマンスに優れ、日本の倉庫建築の主流となっています。しかし、一言で鉄骨倉庫といっても、その種類や工法は様々で、自社の目的や予算に最適なものを選ぶには正しい知識が欠かせません。
この記事では、鉄骨倉庫の基本的な定義から、種類ごとの特徴、メリット・デメリット、さらには建築工法の違いや失敗しない業者選びのポイント、長期的に活用するためのメンテナンス方法まで、網羅的に解説します。この記事を読めば、自社に最適な鉄骨倉庫建築への道筋が見えてくるはずです。
鉄骨倉庫とは?
鉄骨倉庫とは、建物の骨組み(柱や梁などの主要構造部)に鉄骨(Steel)を用いた倉庫のことです。構造が鉄骨であることから、アルファベットの頭文字をとって「S造」とも呼ばれます。 木材で骨組みを作る「木造(W造)」や、鉄筋とコンクリートを組み合わせて作る「鉄筋コンクリート造(RC造)」など他の構造と比べて、鉄骨造は粘り強い性質を持つため、地震の揺れを吸収しやすいという特徴があります。また、部材を工場で生産するため、品質が安定しやすく、現場での工期を短縮できる点も大きな特徴です。
日本の倉庫建築における鉄骨造のシェアと人気の理由
日本の倉庫建築において、鉄骨造は圧倒的な主流です。国土交通省の建築着工統計調査を見ても、倉庫(非居住用建築物)の多くが鉄骨造で建てられています。この人気の背景には、以下のような理由が挙げられます。
優れたコストパフォーマンス
強度と耐久性を確保しつつ、RC造などに比べて坪単価を抑えることが可能です。
短工期
部材を工場で生産し、現場で組み立てるため、天候に左右されにくく、工期を短縮できます。スピーディーな事業展開を求める企業のニーズに応えます。
大空間の実現
内部に柱が少ない、あるいは全くない「無柱空間」を実現しやすいのが鉄骨造の強みです。これにより、フォークリフトの動線や保管ラックのレイアウトの自由度が高まり、作業効率の良い倉庫空間が生まれます。
高い耐震性
しなやかで粘り強い鉄骨は、地震のエネルギーを吸収する能力に長けており、大規模な地震が多い日本において非常に重要な要素です。
これらの理由から、小規模な保管倉庫から大規模な物流センターまで、様々な用途で鉄骨造が選ばれています。
鉄骨倉庫の主な種類とそれぞれの特徴
鉄骨倉庫は、使用する鋼材の厚みによって大きく2種類に分類されます。それぞれにコストや適した建物の規模が異なるため、自社の計画にどちらが合っているかを見極めることが重要です。ここでは、「軽量鉄骨造」と「重量鉄骨造」の具体的な違いと特徴を解説します。
軽量鉄骨造倉庫とは?
軽量鉄骨造とは、厚さ6mm未満の鋼材を骨組みに使用する構造です。部材が軽く、あらかじめ工場で生産されたパーツ(プレハブ部材)を現場でボルト接合して組み立てるのが一般的です。
特徴・メリット:
- 低コスト: 重量鉄骨造に比べて材料費や加工費、基礎工事費を抑えられます。
- 短工期: プレハブ化されていることが多く、現場での作業が少ないため工期が短くて済みます。
注意点・デメリット:
- 規模の制限: 使用できる部材や構造形式に制約があり、柱と柱の間隔(スパン)を広く取ることが難しいため、比較的小規模な倉庫や事務所併設の倉庫などに適しています。
- 設計の自由度: 規格化された部材を使うことが多いため、デザインや間取りの自由度は重量鉄骨造に劣ります。
重量鉄骨造倉庫とは?
重量鉄骨造とは、厚さ6mm以上の鋼材(H形鋼など)を骨組みに使用する構造です。部材同士は溶接や高力ボルトで強固に接合されます。
特徴・メリット:
- 大空間・高層化に対応: 頑丈な骨組みにより、柱のない広大な空間(無柱空間)を作ったり、複数階建ての倉庫を建てたりすることが可能です。天井クレーンを設置するような工場兼倉庫にも適しています。
- 設計の自由度: ラーメン構造など、多様な工法に対応できるため、建物の形状や間取りの自由度が高くなります。
注意点・デメリット:
- 高コスト: 材料費や加工費が高くなるほか、建物の重量が増すため、地盤の状態によっては杭工事などの地盤改良が必要になり、基礎工事の費用もかさみます。
- 工期が長め: 軽量鉄骨造に比べると、現場での作業が多くなるため、工期は長くなる傾向があります。
鉄骨倉庫のメリット・デメリット
鉄骨倉庫を選ぶにあたり、その長所と短所を正しく理解しておくことは非常に重要です。ここでは、軽量・重量鉄骨造に共通するメリットと、事前に知っておくべきデメリット、そしてその対策について詳しく見ていきましょう。
鉄骨倉庫の共通メリット
高い強度と耐震性
鉄は木材よりも強度が高く、粘り強さ(靭性)があるため、地震の揺れに対して倒壊しにくいという大きなメリットがあります。
安定した品質
主要な部材はJIS規格(日本産業規格)に適合した製品であり、工場で生産されるため、職人の技術力による品質のばらつきが少なく、安定した強度の建物を建てられます。
税法上のメリット(法定耐用年数)
鉄骨造倉庫の法定耐用年数は、骨格材の厚みに応じて19年~38年と木造(15年~26年)よりも長く設定されています。これにより、減価償却費を長期間にわたって計上できるため、税務上のメリットがあります。(※建物の寿命とは異なります)
環境への貢献(リサイクル性)
将来的に建物を解体する際、鉄骨は資源としてリサイクルが可能です。環境負荷が低い点もメリットと言えます。
鉄骨倉庫の共通デメリットと対策
熱に弱い
鉄は熱に弱く、約550℃を超えると急激に強度が低下する性質があります。
(対策)建築基準法により、建物の規模や用途に応じて、鉄骨を熱から守る「耐火被覆(耐火塗料やロックウールなどを吹き付ける)」を施すことが義務付けられています。
錆びやすい
鉄は水分や酸素に触れると錆びてしまい、放置すると強度が低下する原因となります。
(対策)建設時に適切な防錆処理(メッキや錆止め塗装)を施すことが基本です。完成後も、定期的な点検と外壁・屋根の再塗装を行うことで、錆の発生を防ぎ、建物の寿命を延ばすことができます。
断熱性・遮音性が低い
鉄は熱を伝えやすく、音も響きやすい素材です。
(対策)外壁や屋根に高性能な断熱材を使用したり、二重構造にしたりすることで、断熱性・遮音性を高めることができます。保管する物品の特性や、周辺環境に応じて適切な対策を講じることが重要です。
鉄骨倉庫の建築工法:主な選択肢
鉄骨倉庫を建てる際の工法は、主に「在来工法」「システム建築」「プレハブ工法」の3つに分けられます。それぞれ設計の自由度、コスト、工期に特徴があり、どれを選ぶかによって倉庫建築の進め方が大きく変わります。自社の要望に最適な工法を見つけましょう。
在来工法(鉄骨造)の特徴
一般的にイメージされる鉄骨造建築で、設計の自由度が最も高い工法です。個別の設計に基づき、工場で加工された鉄骨を現場に搬入し、職人が一つひとつ溶接やボルトで組み立てていきます。
メリット
土地の形状が特殊な場合や、デザインにこだわりたい、複雑な間取りにしたいといった個別性の高い要望に柔軟に対応できます。
デメリット
オーダーメイドに近いため、システム建築やプレハブ工法に比べて工期が長くなりがちで、設計費や工事費も高くなる傾向があります。
システム建築の特徴
設計から部材製作、施工までのプロセスを標準化・システム化した建築手法です。特に倉庫や工場などの大規模な低層建築で採用されることが多く、「yess建築」などが有名です。
メリット
部材やディテールが標準化されているため、設計が効率化され、高品質な建物を短工期・低コストで実現できます。見積もりの精度も高く、事業計画が立てやすい点も魅力です。
デメリット
標準化されている分、在来工法ほどの設計自由度はありません。しかし、近年では標準仕様のバリエーションも増え、ある程度のカスタマイズは可能です。
プレハブ工法(鉄骨造)の特徴
「Prefabricated(あらかじめ製作された)」の略で、建物の部材(柱、梁、壁パネル、屋根など)の大部分を工場で生産し、現場ではそれらを組み立てるだけの工法です。主に軽量鉄骨造で採用されます。
メリット
現場作業が非常に少ないため、圧倒的な短工期を実現できます。また、大量生産によるコストダウン効果も期待できます。
デメリット
規格化の度合いが最も高く、設計の自由度は3つの工法の中で最も低くなります。小規模な倉庫や仮設の倉庫など、スピードとコストを最優先する場合に適しています。
失敗しない鉄骨倉庫の業者選びのポイント
理想の鉄骨倉庫を建てるためには、信頼できる建築業者をパートナーに選ぶことが最も重要です。コストだけで判断するのではなく、専門性や対応力などを総合的に見極める必要があります。ここでは、業者選びで後悔しないための4つのチェックポイントをご紹介します。
施工実績と専門性の確認
まず、鉄骨倉庫の建築実績が豊富かどうかを確認しましょう。企業のウェブサイトで施工事例をチェックし、自社が建てたい倉庫の規模や用途に近い実績があるかを見ると参考になります。特に、システム建築を希望する場合は、その工法に対応できる認定ビルダーであるかどうかの確認が必要です。実績の多さは、技術力とノウハウの証明になります。
見積もりの比較と内容の精査
必ず複数社から見積もり(相見積もり)を取り、比較検討しましょう。その際、単に総額の安さだけで判断するのは危険です。見積書の内容を細かくチェックし、「一式」というような曖昧な項目が多くないか、どのような部材や建材が使われるのか、必要な工事がすべて含まれているかなどを確認します。不明な点は遠慮なく質問し、納得できるまで説明を求めましょう。
提案力とコミュニケーション
良い業者は、こちらの要望をただ聞くだけでなく、専門家の視点からより良いプランを提案してくれます。例えば、保管物の特性を考慮した断熱仕様の提案や、将来の事業拡大を見据えた拡張性の提案など、プロならではの気づきを与えてくれる業者こそ信頼できます。また、担当者とのコミュニケーションがスムーズかどうかも重要です。質問へのレスポンスの速さや、説明の分かりやすさなども判断材料になります。
アフターフォロー体制の確認
倉庫は建てて終わりではありません。長期にわたって使い続けるためには、完成後のサポート体制が非常に重要です。引き渡し後の保証内容(構造体、雨漏りなど)や、定期点検の有無、万が一トラブルが発生した際の対応窓口などを契約前に必ず確認しておきましょう。地域に根差した業者であれば、迅速な対応が期待できる場合が多いです。
鉄骨倉庫の維持管理とメンテナンス
鉄骨倉庫の資産価値を保ち、法定耐用年数以上に長く安全に使い続けるためには、計画的な維持管理とメンテナンスが不可欠です。ここでは、その重要性と具体的なメンテナンス項目、建物の寿命を延ばすためのコツについて解説します。
定期点検の重要性
建物の劣化は、気づかないうちに進行します。問題が小さいうちに発見し対処することが、結果的に大規模な修繕コストを抑えることにつながります。建築基準法では、一定規模以上の特殊建築物(倉庫を含む)の所有者に対し、専門家による定期的な調査・検査とその結果の報告(定期報告制度)を義務付けています。法的な義務を果たすだけでなく、自主的な点検を計画的に行うことが重要です。
主なメンテナンス項目:錆対策(塗装)、雨漏り対策など
鉄骨倉庫で特に重要なメンテナンス項目は以下の通りです。
錆対策(外壁・屋根の塗装)
鉄骨の最大の敵である錆を防ぐため、建物の外装(外壁・屋根)の塗装は最も重要なメンテナンスです。塗膜が劣化すると、そこから水分が侵入し、下地である金属材の錆や腐食につながります。立地環境にもよりますが、10年~15年を目安に専門家による診断と再塗装を検討しましょう。
雨漏り対策
屋根材の接合部や、壁のひび割れ、サッシ周りのシーリング(隙間を埋めるゴム状の素材)の劣化などから雨漏りが発生することがあります。雨漏りは建物の構造体を傷めるだけでなく、大切な保管商品にも被害を及ぼすため、早期発見・早期補修が鉄則です。
その他
シャッターの動作確認・注油、排水溝の清掃なども日常的に行いたいメンテナンスです。
メンテナンスで耐用年数を延ばすコツ
税法上の「法定耐用年数」は、あくまで減価償却のための年数であり、建物の物理的な寿命(物理的耐用年数)とは異なります。適切なメンテナンスを継続的に行うことで、鉄骨倉庫は法定耐用年数を大幅に超えて、40年、50年と使い続けることが可能です。「壊れたら直す」という事後保全ではなく、「壊れる前に予防する」という予防保全の考え方が、結果的にトータルコストを抑え、建物の寿命を最大限に延ばす秘訣です。
yess建築のご紹介
yess建築は、株式会社横河システム建築が提供するシステム建築の商品名です 。この建築システムは、鉄骨造の建物の設計から部材の生産に至るまでをコンピュータで一元管理し、部材を規格化することで「低価格」「工期短縮」「品質向上」を実現します 。特に、強度と経済性を両立した大スパン空間の創出に優れており、倉庫、工場、店舗、スポーツ施設といった低層建築に非常に適しています 。
【yess建築の主な特徴】
構造システム
梁間方向を大スパンのラーメン架構、桁行方向をブレース架構で構成するのが基本形です 。主柱や大梁には高強度の変断面BH材を、母屋や胴縁には大型の薄板軽量形鋼を用いることで、在来の鉄骨造よりも広いフレーム間隔を設定できます 。
高品質な部材
屋根には防錆性能に優れたガルバリウム鋼板を使用した「ルーフシステム」があり、断熱材と組み合わせることで軽量かつ高断熱な屋根を実現します 。外壁も意匠や用途に応じて複数のタイプが用意されています 。
多様なシリーズ展開
建物の規模や用途、要望に応じて最適なシリーズを選択できます。
-
- スーパーラピッド: 部材寸法を規格化することで、さらなる経済性と工期短縮を追求したシリーズです 。
- ラピッドプラス: 建物寸法を1mm単位で設定できる高い柔軟性が特徴です 。中間柱を設置することで最大60mまでの大スパンにも対応可能です 。
- カスタムシリーズ: 規格型を拡張し、オーダーメイドに近い自由度の高い設計に対応します 。在来工法と比較しても、短工期・低価格というメリットを維持します。
これらの特徴により、yess建築は高品質とコストパフォーマンスを両立した、合理的でスピーディーな建築ソリューションを提供します。詳しくはこちらのページも参考にしてください。
鉄骨倉庫の建築は山市成工にお任せください
山梨県甲府市を拠点とする総合建設会社、株式会社山市成工は、yess建築の正規ビルダー(販売・施工代理店)です。yess建築の持つ「低価格」「短工期」「高品質」というメリットを最大限に活かし、お客様に最適な鉄骨倉庫をご提供します。
当社はyess建築システムを用いた倉庫・工場の施工実績が多数ございます。N社倉庫では、サイズの異なるスーパーラピッドタイプを2棟組み合わせ、坪単価15.5万円(建物本体、土間含む)という価格で、着工からわずか2ヶ月半で完成させました。価格、工期ともに大変ご満足いただけた実績です。 F商店様の工場は、お客様の柔軟なご要望にお応えできるカスタムシリーズで施工いたしました。
鉄骨倉庫の新築から改修、メンテナンスまで、山市成工にお任せください。yess建築の優れたシステムと、地域に根差した当社の確かな技術力で力強くサポートいたします。